映画 バイオレンスシーン無し セクシャルシーン無し 筆者のおススメ(☆4つ以上)

【40女の映画レビュー】『ハドソン川の奇跡』| 機長にとっては、"奇跡"ではなく"悪夢"。。。いたたまれない気持ちになるほどのリアルさの追及に脱帽。

2017/12/25

宇宙飛行士など特殊なものを除く一般的な職業のうち、一旦職務につくと最も孤立無援かつ孤独な状態におかれるのがパイロットではないでしょうか。

地上との交信が絶たれない限り、ラジオを通して情報やアドバイスを得ることはできるものの、一旦地面を離れたら再び地面に足をつけるまで、何が起ころうとも基本的に機内にある人間と資源でなんとかするしかなく、そこでの失敗は大惨事に直結することもあります。(2重3重の安全策が張られているので単一のミスが命取りになるというわけでもないのですが。)

旅客機の現役機長を伴侶に持つ&元CAの筆者にとっては、下手なホラーよりもリアルに怖かった映画『ハドソン川の奇跡(原題:SULLY)』について、感想などをまとめました。

 

 

 

映画『ハドソン川の奇跡(原題:SULLY)』

映画情報

原題:SULLY
製作年・国:2016年
上映時間:96分
言語:英語
バイオレンスシーン:なし
セクシャルシーン:なし

 

◆だいたい100文字deあらすじ

2009年1月、ニューヨーク。乗員乗客155人を載せた旅客機が離陸後まもなく鳥の衝突を受け、全エンジンの推力を失う。ハドソン川への着水を奇跡的に成功させた機長サリーだったが、彼を待っていたのはNTSBによる厳しい責任追及だった。

 

◆もうちょっと詳しいあらすじ ※ネタバレ多少あり!

極寒の1月半ばのニューヨーク。USエアウェイズ1549便はいつも通りラガーディア空港からシャーロットに向け離陸した。しかし離陸後まもなく鳥の群れに遭遇、2つあるエンジン両方が同時に鳥を吸い込むという非常にまれなケースが発生し、全推力を失う。

全推力(前進する力)を失った機体であったが、機体をコントロールする操縦系統は機能していた。エンジン停止直後はラガーディアに引き返すか最寄りの空港への緊急着陸を検討した機長・サリーであったが、高度が低すぎ到達できないと判断。目前のハドソン川への着水を決定する。

旅客機の都市部の河川への着水という前代未聞の難事を成し遂げた機長サリーであったが、着水後に待っていたのは外気温マイナス6度、水温2度と極めて過酷な環境下での脱出であった。機体後方から迫りくる浸水に押し出されるようにして脱出し、ラフト(救命いかだ)や翼の上で寒さに震えながら救出を待つ乗客たち。付近を航行していた通勤客を運ぶ民間フェリーを皮切りに、水上タクシーや沿岸警備隊なども次々と救出に到着し、奇跡的に乗員乗客全員が救出された。

緊急着水というとっさの判断で誰の命も犠牲にすることなく、最悪の状況から考えうる最善の結果を得たサリーは一躍時の人となり、ヒーローとして祭り上げられる。意に反して誰もが知る有名人となってしまった現実に戸惑うサリー。

そんなサリーと副操縦士スカイルズを待っていたのは国家運輸安全委員会(NTSB)による原因究明と厳しい責任追及であった。サリーたちが遭遇した事態を検証した結果、ラガーディアもしくは至近空港への緊急着陸は可能だったというのだ。ハドソン川への緊急着水という判断は誤りだったのか?より良い結果が得られる方法が他にあったのか?

40年以上の飛行経験を持つサリーは、キャリアの終盤に遭遇してしまった、たった"208秒の出来事"でそのパイロット人生の全てを判断される運命となる-。

 

 

キャスト

◆役名:チェスリー・"サリー"・サレンバーガー(機長) = トム・ハンクス
原題の『SULLY』はサレンバーガー機長のニックネーム(ファミリーネームの"Sullenberger"を縮めて)です。誠実で冷静で勤勉、経験豊富で頼りになる、誰もが思い描くであろう"理想の機長"サリーを演じるのは、この人以外に考えられないでしょう!のトム・ハンクス。


今さら説明の必要もありませんが、演技力、お人柄、好感度、どれをとってもパーフェクトなトムハンクスはハリウッドのみならず世界中で最も愛され&成功している俳優のひとりです。
これまでも『アポロ13』や『キャプテン・フィリップス』などで乗り物のCREW(乗組員)役を演じていますが、そのどれもが順風満帆とは程遠い。。。さまざまな困難に遭いながらも誠実に果敢に立ち向かう、というキャラクターがピタリとハマるからこその起用なのでしょう。


筆者が初めて彼を知ったのは『スプラッシュ』(人魚と恋に落ちちゃう青年役)。調べてみると1984年製作、でした。。。げげっ!もう30年以上経ってる!^^;

 

 

◆役名:ジェフ・スカイルズ (副操縦士)= アーロン・エッカート
それなりに洋画をご覧になる方なら、どこかで見たなぁ…とお思いであろうこの方。筆者もどこで見たかはっきり思い出せず、経歴をちらっと調べてみたら、"主人公の恋人・友人"役など"主要な脇役"系が多いようです。『エリン・ブロコビッチ』でのジュリア・ロバーツの恋人役だったり。(『ブロークバック・マウンテン』のゲイカップルの片割れでもあったような…?とも思いましたが、筆者の勘違いでした。(ヒース・レジャーと混同していた。)
印象に残る個性的なお顔立ちではないけれど、嫌みのないカッコよさが感じられる俳優さんです。

 

 

◆役名:ローリー・サレンバーガー(機長サリーの妻)= ローラ・リニー
この方も"どこかで見たけど思い出せない…"と検索してみると、フィルモグラフィーには見た記憶のない映画タイトルがずらり… いや、絶対どこかで見た!ともう一度見直すと、ありました。『ラブ・アクチュアリー』。たしか要介護の弟さんを持っていることで恋愛に積極的になれない会社勤めの女性役、だったような。。。
今作ではごくフツーの家庭の主婦がとるであろうリアクションをごくフツーに演じていて、リアルさが感じられました。

 

◆キャストについて・その他

||乗客のひとり=マックス・アドラー
TVドラマ『Glee』に"カロフスキー(カートを苛める同級生・実はゲイであることが後に判明)"役で出演していた俳優さん。『Glee』では、複雑な内面を隠し持ついじめグループのメンバーで、本当にヤなヤツ!と思わせる演技を見せていましたが、今作では"THEアメリカ青年"という感じの気のいいあんちゃんを演じています。



||国家運輸安全委員会(NTSB)の調査員=マイク・オマリー

これまた『Glee』から、カートの父親役だったマイク・オマリーさんが。『Glee』ファンにとっては、"あっ、ここにも!"とちょっと嬉しい発見です。



||国家運輸安全委員会(NTSB)の調査員=アンナ・ガン

TVドラマ『ブレイキング・バッド』の主人公の妻役として名を広めた女優さん。日本では認知度低めの『ブレイキング・バッド』でしたが(ドラッグやその売買に関するある程度の知識がないと楽しめないドラマだったからかも?)、アメリカでは超・人気のドラマシリーズで、最終回の放映後には『ブレイキングバッド・ロス』に陥る人が続出したそう。(ちょうどそのころ日本では『甘ちゃんロス』が取り沙汰されていて、なかなか興味深いシンクロぶりを見せていました。)

 

||実際の救助や報道に携わった関係者がご本人役で多数登場
エンドクレジットに多数登場した『○○:HIMSELF (HERSELF)』。ご覧になった方はお分かりの通り、かなりな数の出演者がご本人役で登場しています。実際の出来事をリアルに再現するため、クリント・イーストウッド監督が出演交渉を行ったそうです。主なご本人役は以下のとおり。


・一番最初に着水現場に到着した通勤フェリーの船長さん
・ニューヨーク市警のスキューバ空海救助チーム(数名)
・サリーにインタビューする女性ニュースキャスター
・赤十字所属の救助隊 など

 

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筆者の感想&エアライン業界トリビア(ネタバレあり

>>監督クリント・イーストウッドの本物へのこだわり

最近は監督業のほうでよくお名前を耳にするクリント・イーストウッド。御年86歳、ですって?!いつまでたってもカウボーイのような勇壮さが感じられる外見と、良質な映画作りへの姿勢から、自分のスタイルを確立している人間であることがわかる気がします。カッコいいわ~…。


近作の『アメリカン・スナイパー』はワンサイド・ストーリー過ぎてあまり好きになれなかったけど、今作では製作のために事故機と同型の飛行機A320を購入したというエピソードにも表れる、リアルさの追求への熱意が画面からひしひし感じられました。

 

>>不時着の描写以外もリアル

そんな監督の熱意もあり、この映画の核をなす不時着前後の出来事の描写はかなりリアル。客室内に水がどんどん押し寄せる映像なんて、筆者がいまだにCAだったら訓練の教材に使いたいと思うほどでした。


それ以外の部分も、事後のサリーの不安定な心理状態や(ノーマルなフライトが続いていたとしても悪夢にさいなまれるクルーは多いのに、あんな事態になって平時同様の状態でいられるはずがない)、サリーと妻の収入に関する会話(『TV取材への報酬はもらえるの?』など)、"そうだよね、そうなるよね…"といたたまれない気持ちになる場面がたくさんありました。

 

>>非常にラッキーだったサリー自身の環境

不時着そのものも最悪の結果に終わる可能性があったわけですが、サリーはじめクルーにとっては事後の結果も最悪な状況に傾きかねませんでした。

航空業界では大小かかわらず"事故・インシデント"が発生した場合、徹底して原因を究明し、再発防止策を講じます。それゆえハード・ソフト両面において改善が図られ、より安全な飛行へとつながっていくわけです。


一方で、原因究明にはさまざまな立場の人間の思惑が絡んできます。航空機を製造する会社は自社の飛行機の不具合を認めたくないし、パイロットも管制官も自身のミスが原因とは思いたくありません。出来事の大小にもよりますが、原因が求められたのが個人である場合、キャリアの終焉を意味することも少なくありません。

サリーの場合、非常にラッキーだったのは、大手エアラインの直接雇用パイロットという比較的安定したポジションにあったこと、組合による全面支援が得られたこと、副操縦士など同乗クルーも優秀で手順通り速やかに対応が行われたこと、死者が一人も出なかったことです。

逆に機長が"契約制の期間雇用パイロット"で"組合に所属しておらず"、"同乗クルーの誰かが手順違反を冒していて"、"死者が出ていた"ならば、原因追及の段階のどこかで必ず責を問われ、失脚していたと思います。

 

 

>>エアライン・トリビアその1:飛行機に乗ったらこれだけは確認しよう!

離陸前に放映される『安全に関する説明』のビデオ、しっかり見てますか?短時間でわかりやすくできていて、この映画のような事態に非常に役に立つので、ぜひぜひ視聴しましょう。
筆者も飛行機に乗るたび、①非常口の場所&脱出経路2つ以上 ②衝撃防止姿勢(衝撃から身を守る姿勢) ③救命胴衣の場所 ④酸素マスクの場所 あたりは、何食わぬ顔をしながらも毎回しっかり確認しております。

 

>>エアライン・トリビアその2:『魔の11分』に備えてやっておいたほうがよいこと

エアライン業界では、離陸後3分&着陸前8分は『魔の11分』と呼ばれています。航空機事故の7割がこの時間帯に集中しているからです。この映画を見て"備えあれば…"と身に染みた方、せめてもの自衛策として"魔の11分"の時間帯は不測の事態に備え、以下3つを行っておくことをお勧めします。


●シートベルトは腰骨のあたりでゆるみなく締める
●靴は脱がない(できれば上着も脱がない)
●深くまっすぐ腰掛け、両足をしっかり床につけて安定した姿勢をとる

シートベルトはきちんと締まっていなければ用を為さないし、靴を履いていないと逃げ遅れてしまう、安定した姿勢で座っていないと大きな衝撃に耐えられない、のが理由です。

 

 

>>エアライン・トリビアその3:この期に及んでマニュアル見てるの?

映画を見て、エンジンが推力を失ってどんどん降下していく緊急事態のさなか、副操縦士がマニュアルを取り出してチェックリストを確認し始めたのを『この期に及んでマニュアル?』と不思議に思った方もおいでかもしれません。

旅客機のパイロットは、関連法を守りながら飛行機を安全に操縦できるだけだけでなく、飛行機や旅客に不測の事態が発生した場合に管制やキャビンクルーなどと連携を図りながら速やかに正しい対応をとることも求められます。予想されうる事態については全て手順が決まっていてマニュアル化されているのですが、その全てを記憶することは不可能であり、不確かな記憶に頼ることは危険を増す要因にもなります。

ゆえに、映画のような事態が起こった場合は、『両エンジンパワーを失った場合』についてのマニュアル記載箇所を探し、記載のリスト通りの対応をとる、というわけです。(辞書のように分厚いマニュアルからすぐに記載箇所を見つけられるかどうかがカギ。映画では紙のマニュアルを使用していましたが、最近はタブレット端末に収められている場合も。)

 

 

大人女子へのおススメ度:星4.5つ☆☆☆☆★

エアラインものに限らず、現場を知る人間が『それは現実にはないよ~』と突っ込みたくなる映画はよくありますが、この映画は実話を基にしていることもあって全篇通してかなりリアル。小手先のトリックにはコロッと騙されない大人女子にも見ごたえありと思われます。


精神的にハードな立場に置かれ、自身が下した判断の是非を自問自答して苦悩しながらも、最後まで冷静さを失わなかった主人公サリーの、"自分の仕事をしただけ"と表現する仕事に対する実直な姿勢にも心打たれ、励まされる作品。
おススメです。

 


おしまいです。

 

 

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